海外に住んでいたからといって、英語ペラペラにはならない

「イギリスに2年間、住んでいました。」

と言うと、決まって次に返ってくるのが

「英語ペラペラなんですね。」の一言です。

ほとんどの人に言われるといっても過言ではないくらい、何度このやり取りをしたことか。この一言が出るくらい、多くの方が、海外に住むと英語がペラペラになると信じていると思います。私もそう思っていたうちの一人でした。

しかし実際にロンドンに住んでみると、驚くほど英語が話せなくても生活できることに気が付きました。私の場合、ビザを取って単身で渡英したので特に友達もおらず、最初の頃は、ほとんどの時間を話すことなく過ごしました。イギリスに行ってすぐに取得しないといけなかったナショナル・インシュランス・ナンバー(イギリスで働く外国人が取得しないといけない、税金の支払い時に必要な個人番号)の手続きで電話をかけた時ぐらいで、あとはスーパーに買い物に行くのも観光に行くのも、特に英語が上達するほど喋る機会はありませんでした。

私自身、海外に単身で行けば必要に駆られて英語を話し、2年間も滞在していればペラペラになるだろうと疑いもしませんでした。そんな軽い気持ちで始まった海外生活なので、最初の1ヵ月でとても焦りました。絶対に帰国したら、「英語ペラペラなんでしょう?」と聞かれると。そして、きっと今の生活のままでは胸を張って「うん、ペラペラだよ。」なんて口が裂けても言えないことも十分に分かりました。

幸い、プライドだけは人一倍高かったので、帰国後に英語がペラペラではないことだけは絶対に避けたいと思いました。

 私がイギリスに渡った2014年は、1ポンドが198円と日本円の約2倍だったこともあり、もともとほとんど持っていなかった貯金が想像の倍以上に減っていきました。思っていたよりも家賃が高かったこともあり、数ヵ月はゆっくりしようと思っていたのですが、そうともいっていられない状況に追い込まれ、すぐに働き始めました。単身で行ったため友達もいなかったので、働くと同時に3ヵ月間だけ語学学校に入りました。

「日本で申し込んでいくよりも実際に足を運んで学校を決めた方が良い」と知り合いの方にアドバイスを頂いていたので、語学学校は現地に赴き学校見学をしてから決めました。日本の留学エージェントを使い、語学学校を無料で紹介してもらえるシステムがあったので、それを利用しました。予算や立地、クラスの人数構成等の詳細を伝えるだけで希望に合った語学学校をすぐにピックアップして連絡してくれます。

2校紹介してもらって見学した後に、アットホームな雰囲気の小さな語学学校に決めました。校内を案内してくださった方はイギリス人だったので、その時が一番英語を話したのではないかと思います。午前中のみの授業を3ヵ月間申し込みました。先生と生徒の距離がとても近いことが良かったです。つい先日も当時の先生から「元気にしてる?」と連絡をもらったくらい、本当にアットホームな雰囲気でした。  

ただ、小さな学校だったため、クラス数も少なく3クラスしかありませんでした。良いのか悪いのか一番上のクラスに決まりました。私のクラスは、なぜ語学学校に通っているのか分からないくらい英語がペラペラな生徒たちばかりでした。国籍が豊かだったのも特徴的で、イタリア、フランス、リビア、ロシア、スペイン、ベネズエラ、コロンビア、韓国と、珍しくアジアからの生徒はほとんどいない環境でした。海外旅行に行ったことは何度もありましたが、こんなにも国籍が混ざった環境は初めてだったのでとても楽しかったです。

ロンドン中心地の安い語学学校は、日本人や中国人が多いため、真剣に語学学校で英語を学びたい人は、あまりにも安いところは選ばないようにすることをオススメします。私の通っていた語学学校は、1クラスの最大生徒数が12人でしたが、3クラスしかないほど生徒が少なかったため、常に6人から10人ほどでした。少ない人数のため、発言する機会も多く、良い環境でした。

今でも当時のクラスメイトとは連絡を取っていますし、この学校にして良かったと思います。

 ただ残念なことに、私は語学学校ではほとんど英語力が伸びませんでした。原因は「受け身」だったからです。

日本人が海外に行く目的として、一番多いのが語学留学ではないでしょうか。もちろん現地の大学に行く人もいれば、現地の語学学校に行く人と様々だと思います。私自身、語学学校に行けば自然と友達は増えると思っていましたし、英語力も伸びると思っていました。

でも実際は全く違いました。友達はたくさんできたので、そこに関しては目標を達成しましたが、実際の授業は日本で英会話スクールに通っていた時と全く変わりませんでした。私の場合は、周りがペラペラだったこともあり、英語を話すことに委縮していたのも大きな要因です。リビア人の友達は、全く訳の分からないリビア語のテンションで英語を話していたので、あのモチベーションが私にもあれば、もっと語学学校での3ヵ月を活かせたのになと思います。

今でも忘れられない語学学校での授業が、2つあります。

1つは、「車イスのバスの乗車について、どのような方法を取れば時間をかけずに乗車出来るか」ということについてグループごとに意見をまとめ、みんなの前で発表するというもの。

そしてもう1つは、「ヌーディストについてのディベート」。ディベートなので、自分の意見に関わらず肯定派と否定派に分かれて議論をします。正直、当時の私は日本語ですらどちらのテーマにも意見がありませんでした。聞かれていることも状況も分かっているのに、英語どころか日本語も全く浮かばないので、まさしく頭真っ白な状態です。ヌーディストなんて言葉は初めて聞きましたし、裸で生活することを推進している人たちがいることに衝撃を覚え、意見なんて全くありませんでした。今の私なら、たくさんの意見があり、話し合えると思いますが、当時の私には到底無理でした。

午前中は、そんな授業を受けながら、夜は生活費を稼ぐためにアパレルでアルバイトをしていました。十分に英語を話せなかったため、もちろん職探しは難しかったです。しかし、日本で働いていた時代に、アパレルで店長をしていた経験があったので、採用に至ったのだと思います。日本での経歴がロンドンでも役立つなんて思ってもいなかったので、人生に無駄なことはないですね。

午前中の語学学校とは打って変わって、夜は私にとって常に緊張感のある時間でした。接客英語を一通り覚えて、とりあえず使ってみる。相手に伝われば、この英語は本当にあっているんだなと実感でき、相手に伝わらなければ他の言い回しでトライしてみる。この繰り返しでした。こんな生活をほぼ3ヵ月続けたので、ロンドンに行ってからの最初の数ヶ月はただただ疲労しかありませんでした。

私が勤めていたアパレルは、いわゆるデザイナーズブランドのブティックでした。ファストファッションブランドとは違って、たくさんのお客様が来るわけではありません。一日に数名のお客様が数着買ってくれるスタイルです。ロンドンのコベント・ガーデンという観光地にあったので、観光客の方はもちろん、現地のお客様と様々な国籍の方々で溢れていました。常にお客様と会話をしながら、気に入ってもらえたらお買い上げいただくというものでした。中にはアメリカ人のお得意様もいて、ロンドンに来る度に寄ってくださるお客様もいました。

そのため、決まったセリフの繰り返しとは違い、日常会話のレベルがかなり問われました。海外のお客様は、友達に会話するノリでスタッフに話しかけてくるので、決まり文句を覚えているだけでは到底追いつきませんでした。ある程度の接客会話は覚えてしまえば簡単に対応できますが、お客様が求めているのは「日常会話」です。正直、相手が何を言っているか分からないレベルだった私には、「日常会話」はかなりハイレベルなことでした。

このままではやばいと思い、午前中は週5日語学学校に通い、午後と週末はアパレルでアルバイトという過酷なスケジュールの中、アルバイトがお休みの日は現地の友達と必ず会い、休みの日でも英語を話す環境を作りました。休みの日でも全く脳が休まらず、友達と会っていても英語しか話せず、うまく自分の言いたいことを言えずに発狂しそうな日々を続けました。そこまでしてやっと、ロンドンに住んでから半年ほど経ったある日、「あれ?英語が不自由ではないかも。」と思えるようになりました。

 これほど自分を追い込んで英語を話す環境を作った結果、やっと英語に自信が持てるようになりました。恐らく、ただ単に語学学校に行って、日本人スタッフばかりがいるレストランで働いていたら、2年経って帰国する頃でも英語に自信が持てるレベルではなかったと思います。

 日本での生活を少し思い浮かべてみてください。電車に乗る際もカードでピッと通れるし、スマホがあれば道を聞かなくても案内してくれます。スーパーに行けば、欲しいものをレジに通せばいいだけだし、日常生活は話さなくても過ごせることを容易に想像できると思います。

それは海外に行っても同じです。努力して、自分で必死に英語を話す環境に追い込まなければ、日本の語学学校に通うのと同じです。海外に住んでいたからといって、英語がペラペラになるわけではありません。全ては自分の努力次第です。